1N60とは何か。なぜペアが必要なのか。
ゲルマニウムダイオードの代表1N60
1N60はゲルマニウムダイオードです。(でした) ゲルマニウムダイオードやゲルマニウムトランジスターはゲルマニウム鉱石を溶かして純度を上げて量産し、針を点接触するだけのシンプルな構造で、真空管のような高圧を使わなくて低圧で使えて圧倒的な小型とコストダウンが図れるので物凄い発明だったわけです。めっぽう熱に弱く半田付けしたら性能も変わりますし外気温の変化に敏感に反応します。衝撃にも反応します。規格表通りの性能はありますが、とても不安定な部品です。1N60はゲルマニウムラジオの検波器として有名です。小さい電波・高い周波数を処理してくれます。1N60(Vf=200mV)以外にもシンセにシリコンダイオードの1N914(Vf=380mV), 1S2473(Vf=300mV)というダイオードが使われましたがアバウトに同じような性能であれば充分処理してくれます。今では1S1588、1S2076Aはもう古くて1N4148かこの1N60を使うのが都合が良いです。
Vf値
出力波形に関係するのはVf値(順方向電圧)。この説明は省略しますがこの電圧を越えるまで抵抗器となり電流が流れない仕組みです。この値が低いのがゲルマニウムの特徴です。(データシートには10mA時点の電圧値が多い)
この特徴を活かして作られたのはトランスとゲルマニウムダイオードで作るDBM(リングモジュレーター)ですね。Vf値が低ければ0V付近の波形が綺麗です。可聴範囲での利用なら無選別でも歪みは気になりません。 Vf値が高ければ0V付近に無反応な波形が現れて音が歪みます。勿論ゲルマニウムダイオードよりも綺麗に動くDBMは作れますが部品の数も多く複雑な回路が必要となります。DBMで綺麗な波形を得るには2つの入力電圧を揃える方が重要なのです。まぁその話はいずれ別の機会にしましょう。
https://101010.fun/analog/modular-ring-modulator.html
バイアス
https://www.fbnews.jp/202006/trivia/index.html
「バイアスを加える」というのは+か-の一定電圧や電流をあらかじめにミックスして結果を調整するテクニックです。1N60の代替に1S2743を使っても+100mVのバイアスを加えれば1N60と一緒とする設計変更すればよいのです。 1S2743の代替に1N60を使いたければ-100mVのバイアスを加えればよいのです。電流はuA程度で済むのが一般的です。大きめの抵抗を忘れると発熱するので要注意です。
数年後にはシリコンダイオードが登場
シリコンダイオードやシリコントランジスタは火打石を溶かして純度を上げて量産しています。面接合ですので精度のばらつきは無視出来、面積次第で耐電圧も効率も上がり物凄い発明だったわけです。ゲルマニウムと比べたら性能が10桁以上違うのでIC,LSIと進化出来ました。熱で性能が不安定に変わるのはあまり変わっていません。ぶっちゃけマイナスの電子ホールを持った素材なら何でもいいのでゆっくり溶かして単結晶に生成してくっつけちゃえばいいのです。(ぶっちゃけ過ぎ)シリコンは地球上にいくらでもあるので着眼点が良かったのですね。Vf値は400mV以上です。1N60もシリコン版が作られショットキーバリアダイオードとして生産されるようになりました。もちろんVf値は400mVです。日本では夏と冬でVf値が50mV変動します。
消えていったセレンダイオードと真空管
ゲルマニウムダイオード時代の高電圧整流器にセレンダイオードというのもありました。シリコンダイオードの登場で民生用には生産されなくなりました。超高電圧用に生産しているかもしれません。そして東芝・日立の真空管も白黒テレビと共に生産されなくなりました。
ダイオードラダーなVCFをよみがえらせる設計とは
とある設計図が入手出来ましたのでダイオードラダーなVCFを再設計しています。そのために必要となりました。そのVCFはすこぶる評判が悪くて効きが悪くて改造される方もいます。パーツも入手性が悪いので今の流通部品でゴン攻めしたダイオードラダーなVCFを載せてみようと思います。まぁ夢は大きくTB-303やAN1xの再来とでもいいましょうか。VCS3でもいんですけど使った事が無いのでそこまでは言えません。 SH-3・・・いいですね。
いくら古い設計でもVf値のバイアスは計算されております。なので低Vfなシリコンダイオードでバイアスを調整すればほぼ問題ありません。
妥協できないVf値のマッチング
複数重ねて使うVCFではVf値を揃えないと切れのいいフィルターは作れません。Vf値を揃えずに作るとレゾナンスを上げた時、バラバラに効き始めたり4つの異なる周波数で綱引きを始める形となり、音を出し続けると一応安定はしますが常時不安定となります。つまりレゾナンス発信音でのCVでの演奏が出来ないシンセとなります。(個人的には楽器と玩具くらいの差があります)トランジスターも構造上同じですのでベース・エミッター間にVbe値が存在します。つまりminimoogのVCFもVbe値が揃っていないと博士が半田ごてを握りながら墓場から蘇る事でしょう。
https://detail-infomation.com/bipolar-transistor-ib-vbe-characteristics/
温度でずれてますね。
トランジスターも似たようなものです。
トランジスターとなるとhFE値(ゲイン)を合わせる必要があります。同じ型番のトランジスターでも増幅結果が違うなんて調整が面倒です。同じhFE値にあらかじめ揃える事が出来れば理想的な結果が得られます。もしバラバラだったらどちらか一方に電流が流れて異常な発熱・熱劣化で故障しますし、そこまで電流が流れない設計にしてもボリューム上げたら右だけ音量が大きいとかおかしな状態になります。オーディオアンプのメーカーなら間違いなく高精度で揃えているでしょう。
説明が長くなりました。実際に計測しましょう。
1N60のVf値を計測してみよう
- シリコンダイオード版1N60個数は20個。
- トランジスターチェッカー(トランジスターテスター)機能が付いた測定器。
- 直接触れることなくクリップ出来るよう線を3本自作しています。(片側ワニぐちクリップ、片方ICクリップ)
- 気温22度の部屋に1時間放置、締め切って風が当たらないようにする。
- 部品に触れることなくクリップで配線する。
- 測定間隔30秒以上。
さていかがでしょうか。
確認してないけど多分15mA流すのに何Vだったかの値です。
不安定な部品について
明らかに値が揺れて大きい6については規格内とはいえ捨てた方がいいですね。パッケージのガラスにヒビでも入って水分を吸収しているかもしれません。
選別基準について
- 1%の幅で確保したいならVf値±2
- 0.5%ならVf値±1
- 0.25%なら同じ値
追加する場合の測定方法について
さらに多くの部品を計測して選別したい場合は、例えばVf値455を基準に考えると、- Vf値455の部品の再測定から誤差を確認
- 別部品の計測
- 誤差を差し引いてマッチング
改善点
5回測って同じ値なら次に進めた方が早いです。厚手のゴム手袋をした方がいいかもしれません。つい触れてしまうと値が安定しないような気がしています。気温は変動さえしなければいいし、翌日でも再計測で誤差は補正出来るので問題は無い。安定しないのが困る。
次回予告
トランジスター版Matched Transister PairsはVbeとhFEを同時に見ながら測定していきます。有名な2N3904を測ってみます。
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